オカルト黄斑ジストロフィーの原因遺伝子を解明
オカルト黄斑ジストロフィー(Occult Macular Dystrophy) の原因遺伝子を解明
-眼科・耳鼻科領域における感覚器疾患の原因遺伝子が国内チームのみによって解明されたのは今回が初めて-
感覚器センター (赤堀正和、角田和繁、三宅養三、岩田 岳)
東京大学医学部神経内科 (辻 省次) 他9名
要約
今から20年前に日本人眼科医によって発見された家族性黄斑症の一種であるオカルト黄斑ジストロフィー(Occult Macular Dystrophy)の原因遺伝子が、東京医療センター感覚器センター(東京都目黒区)と東京大学医学部神経内科との共同研究チームによって解明されました。オカルト黄斑ジストロフィーは網膜中心部の機能が徐々に傷害され両眼の視力が低下する疾患で、これまでその発症原因は解明されておらず治療法もありません。今回の発見により、本疾患の治療法の開発に向けた研究が加速するものと期待されます。この研究成果の詳細は米国の遺伝学雑誌「The American Journal of Human Genetics」に、2010年9月9日付(米国時間)オンライン版にて一般公開されました。
研究の背景
オカルト黄斑ジストロフィーは1989年に眼科医三宅養三(元感覚器センター長。現、愛知医大理事長)によって発見された家族性の網膜疾患です。網膜中心部(黄斑部)の機能が徐々に傷害され両眼の視力が低下する疾患ですが、これまで原因が分かっておらず治療法もありません。また本疾患は他の黄斑ジストロフィーと異なり黄斑部が全く正常に見えるため、その診断には黄斑部局所網膜電図という特殊な装置が必要であり、視神経疾患、弱視など他の眼疾患と誤診されるケースが数多くありました。東京医療センター分子細胞生物学研究部(岩田 岳 部長)および視覚生理学研究室(角田 和繁 室長)の研究チームは、東京大学医学部神経内科(辻 省次 教授)と共同で、国内における患者家族の疾患調査および遺伝子検査を行い、疾患原因の解明に向けた研究を行って参りました。
研究成果の内容
本研究では辻教授によって開発されたSNP HiTLink法を用いて、これまで困難であった小型の患者家系において、原因遺伝子の染色体上での位置を決定することに成功しました。 この解析法によってオカルト黄斑ジストロフィーの原因遺伝子は染色体8番短腕にあることが明らかになり、その領域に存在する128遺伝子の中からRP1L1遺伝子にR45WとW960Rのアミノ酸置換を発見しました。RP1L1遺伝子は網膜の視細胞(錐体細胞と桿体細胞)に発現するタンパク質で、網膜色素変性の原因遺伝子であるRP1とアミノ酸配列の相同性があります。これまでの研究から、2つのタンパク質は相互作用しながら視細胞の構造や細胞内輸送に関与していると考えられます。黄斑における視細胞の構造は周辺網膜とは異なり、細長く、密に存在しており、オカルト黄斑ジストロフィーの患者では細胞の構造に異常があるとの報告もあります。黄斑は視力を決定する重要な部位であり、高い視力を獲得した霊長類や一部の鳥類にしか存在しません。RP1L1の機能が明らかになることにより、黄斑の特徴が明らかになり、適切な治療法の開発に役立つと考えられます。
発見の意義
日本人が発見した遺伝性感覚器疾患は非常に少なく、その疾患の原因遺伝子を日本研究グループのみによって同定した例はありません。発症原因の解明されている一部の遺伝性網膜疾患については、海外を中心にすでに遺伝子治療が行われ始めています。今回本疾患の原因遺伝子が確定したことにより、今後、治療法の開発に向けた研究が加速するものと期待されます。また、通常の検査では診断が難しい本疾患を正確に診断するため、今回の遺伝子情報が役立つものと思われます。
論文に関する問い合わせ先
独立行政法人国立病院機構東京医療センター
臨床研究センター(感覚器センター)
分子細胞生物学研究部
岩田 岳 (いわた たけし)
〒152-8902 東京都目黒区東が丘2ー5ー1
TEL/FAX : 03-3411-1026
Email :
HP: http://www.kankakuki.go.jp
本疾患に関する問い合わせ先
独立行政法人国立病院機構東京医療センター
臨床研究センター(感覚器センター)
視覚生理学研究室
角田和繁(つのだ かずしげ)
〒152-8902 東京都目黒区東が丘2ー5ー1
TEL : 03-3411-0111
Email :
SNP HiTLinkに関する問い合わせ先
東京大学医学部神経内科
辻 省次(つじ しょうじ)
〒113-8655 東京都文京区本郷7ー3ー1
TEL : 03-5800-6542
FAX : 03-5800-6844
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