心臓血管外科

診療科の概要

当院では、診療科としての心臓血管外科と循環器内科を実務上統合した形で心血管・不整脈センターを開設しており、心臓血管外科は心臓・血管・不整脈に関する診療の手術・外科的部門としてボーダレスな医療を目指し、一人でも多くの患者さんを救うべく日夜診療にあたっています。心臓血管外科が関わる疾患領域は、心臓;冠動脈疾患、弁膜症、不整脈、心不全、腫瘍等、血管;大動脈、末梢動静脈と、頭部を除き広く全身にわたります。治療は主に機能回復を目的とした構造修復、また全身管理、循環管理に伴う外科的処置であり、対患者としては、過不足のない、集学的できめ細やか、より質の高い優しいテーラーメイドな医療を提供することをモットーに診療にあたっています。

近年の対象患者の高齢化、疾患の多様化・複雑化から、基本的医療からより高度な医療において、より質の高い技術が必要であり、もともと侵襲度が高い心臓血管外科領域手術において、確立された手術の低侵襲化をはかり、より低侵襲な手術や新たな術式を考え、デバイスや内視鏡の効果的に利用し、カテーテル治療とのハイブリッド治療を取り入れ、また人工心肺装置その他の補助手段装置を有効かつ必要最小限に活用するといったことに取り組んでいます。今後もこれらの基本概念を礎にさらに安全性の発展と、新しい取り組みの標準化を目指します。

スタッフ(2021年4月現在)

  • スタッフ
    • 3名(科長 1名、常勤2名)
  • レジデント
    • 1名
  • 診療科全体の医師数
    • 5名(男性:4名、女性:1名)
      うち修練指導医数:1名、外科指導医1名
  • 診療看護師
    • 1名(初期研修医 概ね1名)

2018年4月より新たに診療看護師(JNP; Japan Nurse Practitioner)を加え、2021年4月現在、医師3名(心臓血管外科専門医が3名 ※外科所属 血管外科スタッフ1名を含む、修練指導医1名)と診療看護師1名で診療に当たっています。
診療科体系は、心臓血管外科、血管外科(診療科外科)と循環器内科、救命救急科、麻酔科、放射線科の他、看護師、診療看護師(JNP)、理学療法士、臨床工学技士、生理機能をはじめとする各種検査技師のほか、栄養科や各種医療支援から構成されるチーム医療を実施しています。また、他疾患を有する場合や、当科精査中に他臓器に問題が発見された症例は、該当する専門医師と連携し安全に治療を遂行します。
心臓血管外科は他領域に比べ侵襲度の高い手術ですが、充実したチームにより、集学的テーラーメイド医療を提供することを可能にします。また、よりよい長期成績に繋がる周術期管理であること、生活の質改善・向上を考慮した外来フォローであることにも取り組んでいます。
充実したチームによる職場環境は、より安全なタスクシェアリングとなり、医療従事者にとってのワークライフバランスにもつながることになります。

専門研修プログラム名および全研修期間 (うち東京医療センター以外での研修期間)

国立病院機構東京医療センター外科専門研修プログラム心臓血管外科サブスペシャルティコース
3年(うち東京医療センター以外で1年間)

全研修期間のスケジュール例

心臓血管外科研修コース

東京医療センター
(12か月)
連携施設選択
(6か月)
東京医療センター
(18か月)
消化器・呼吸器 成育、相模原、新潟、日医救急 心血管
  • 東京医療センター研修:消化器9か月、呼吸器3か月、心血管18か月(以内)。
  • 連携施設研修:成育、相模原、日医救急、新潟を合計6か月以上(1施設の研修期間は1か月以上)となるように選択。選択の順序(組み合わせ)とその時期は、期間中に研修が効果的となるよう考慮して設定します。

プログラムの特徴

  • 外科専門医は初期臨床研修修了後、3年(以上)の専門研修で育成されます。3年間の専門研修期間中、基幹施設または連携施設で最低6カ月以上の研修を行います。基幹施設単独または連携施設のみでの3年間の研修は行われません。
  • 専門研修の3年間の各年毎に、医師に求められる基本的診療能力・態度(コアコンピテンシー)と外科専門研修プログラム整備基準に基づいた外科専門医に求められる知識・技術の修得目標を設定し、その年度毎に達成度を評価して、基本から応用、さらに専門医としての実力をつけていくように配慮します。
  • 専門研修期間中に東京医療センターに籍をおきながら慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程(連携大学院)へ進学することが可能です。 臨床に従事しながら臨床研究を進めるのであれば、その期間は専門研修期間として扱われます。
  • サブスペシャルティ領域については、まず必要な外科専門研修を修了し、心臓血管外科専門医取得に必要な経験を効率よく積むことが可能です。
  • プログラムの定員  1~2名/年
  • 平成31年度の採用者数: 1 名

手術症例数一覧(2017~2020年実績)

手術症例 2017 2018 2019 2020
1 単独冠動脈バイパス術 15 14 16 7
2 ※複合冠動脈バイパス術 6 7 5 13
3 弁膜症手術 19 21 18 31
4 ※複合弁膜症手術 4 7 3 15
5 その他の心臓手術 9 8 8 10
6 胸部~胸腹部大動脈瘤 41 43 42 48
7 ※急性大動脈解離 22 15 24 18
8 *腹部大動脈瘤 15 39 37 31
9 *末梢血管 102 95 261 251
10 **不整脈デバイス治療 120 75 62 90

*腹部大動脈瘤、末梢血管(※IVRを除く)は血管外科(診療科外科)

**不整脈デバイス治療;PM、ICD/CRT(D)は循環器内科の管理となっています。

検査・処置 等一覧(通年実績)*注

手技・検査・手術 等 数(年間)
1 中心静脈・スワンガンツカテーテル挿入/抜去 50~60
2 大血管CT検査 200
3 心臓超音波検査 100
4 集中治療管理 全手術症例
5 心臓・大血管リハビリテーション 全手術症例
6 IABP、PCPS/IMPELLA等の補助循環管理 10~20(他科含む)

*注)周術期管理を行う上で当科で行う/当科が関わる検査、処置

施設認定

  • 日本心臓血管外科専門医認定機構 基幹修練施設
  • 日本外科学会専門医制度修練施設
  • ステントグラフト実施認定施設(胸部・腹部)
  • 日本集中治療医学会認定専門医研修施設
  • 心大血管疾患リハビリテーション施設I

独立行政法人国立病院機構東京医療センターについて(基幹施設)
病床数741床(外科67床、救命救急センター28床;うちICU 6床、CCU/ICU 6床)のNHO高度専門医療施設、地域がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院です。臨床研究センターを併設し、敷地内にはNHO全国143施設の本部が設置されています。また、1987年よりスーパーローテート方式の初期臨床研修制度を開始し、「心豊かな志高いプロフェッショナルをめざす」という研修理念を掲げて全国から1学年27名の初期臨床研修医を受け入れています。そのため、教育研修部を中心とした基幹型臨床研修病院としての体制が充実しており、NCD登録年間2000例以上で、消化器、乳腺、呼吸器、心臓血管外科の研修を必要に応じて効率よく行うことができます。

連携施設

  • 慶應義塾大学病院
  • 独立行政法人国立病院機構東京医療センター外科(連携施設):悪性疾患から胆石症、虫垂炎、鼠径ヘルニアと幅広い症例を網羅し、鏡視下手術、ロボット支援手術(da Vinci)といった最新の医療を取り入れています。また内視鏡手術セミナー(ドライラボ、アニマルラボ・トレーニング)、院内のトレーニングセンターでのシミュレーター等において日々研鑽を積むことも可能です。急性腹症等の緊急手術や乳癌症例が多いのも特徴で、経験豊富なスタッフが24時間体制で教育に当たっています。
  • 独立行政法人国立病院機構相模原病院外科(連携施設):リウマチ・アレルギー疾患の我が国の基幹医療施設、年間約700件の手術、その多くを腹腔鏡手術や胸腔鏡手術、低侵襲治療として行っています
  • 国立研究開発法人国立成育医療研究センター外科(連携施設):日本で最大規模の小児・周産期・母性医療を専門とする唯一の国立高度専門医療センターです。国内有数の手術症例数を誇り、小児固形腫瘍、新生児外科疾患においては国内をリード、また移植外科、小児心臓血管外科症例数は国内トップクラス、小児肝移植症例数ならびに治療成績は世界をリードしています。
  • 独立行政法人国立病院機構新潟病院外科(連携施設):学閥はなく、麻酔を自分達で手がけ年間180件程度の手術を行っています。
  • 日本医科大学付属病院高度救命救急センター

当直業務等

病院当直:心臓血管外科として負担するのは2~3回/月です。
診療科オンコール体制:心臓血管外科はスタッフが担当します。心臓血管外科配属中の研修医には時間外勤務の義務はありません。
※病院の当直はスタッフもしくはレジデントによる内科・外科の各1名と研修医が3名(院内病棟A/B、救急外来の各1名)、専門分野としての対応については各診療科によって時間外・休日対応は異なります。

週間スケジュール

 
午前 手術 リハビリカンファレンス
外来・病棟業務
手術 血管カンファレンス 手術カンファレンス
リハビリカンファレンス
外来・病棟業務
午後 手術 外来・病棟業務
循環器カンファレンス
手術 勉強会(隔週) 外来・病棟業務
手術カンファレンス

※毎朝回診と毎夕診療ミーティング

各カンファレンスの解説

手術カンファレンス 翌週予定手術の症例について多職種で行う検討会
循環器カンファレンス カテーテル症例を中心に主に循環器内科から提示する症例検討会
血管カンファレンス 大動脈、末梢血管に関する症例の検討会
リハビリカンファレンス 入院中患者の早期離床、退院支援を目的とした検討会
勉強会 論文の抄読のみでなく、最新医療情報のup to date、医療情報共有

研修修了後の進路

当院において引き続き修練を続ける事は可能です。また、近隣の大学、他施設、修練施設との組み合わせによる選択も豊富であり、症例数とスタッフ数とのバランスといった要素も含め、個々に応じた対応をとる事が可能です。

研修中の専攻医の声

2021年現在在職後期研修医3年目 奈良 努 先生

東京医療センターでは、虚血性心疾患、弁膜症、大血管疾患(ステントグラフトを含む)と非常に多彩な症例を経験することができ、多くの緊急手術も行っています。また、専門医取得のために必要とするWetlabの実施や、積極的な学会発表や抄読会など、臨床だけでなく学術的にも非常に充実しています。科長の先生をはじめ上級医の先生方がやさしく、充実した毎日を送っています。心臓血管外科をこれから目指す先生方は、是非、一度当院に見学にいらしてください。病院一同、心からお待ちしております。

2019年初期研修医2年目 松沢 拓弥 先生

胸部外科学会関東研修医最優秀賞を受賞して
この度、2019年6月8日に行われた第180回日本胸部外科学会関東甲信越地方会の研修医セッションで最優秀賞を受賞致しましたのでご報告致します。
心臓血管外科の先生方より御指導を受け症例報告の機会を頂きました。演題は「上行置換術後中枢吻合部仮性瘤に対しパッチ閉鎖術施行後の新規仮性瘤に対してAmplatzer Vascular Plug2(AVP2)を用いた治療」です。
医療の進歩に伴い様々なデバイスが実臨床の場に登場してきています。今回の症例はまさに最先端の技術を用いて治療を行い奏功した一例です。循環器内科、放射線科医師や放射線技師、看護師、大勢の職種の人が連携し、その経験を生かして難しい症例の治療を可能にしました。
血管吻合の技術により術後吻合部仮性瘤を生じることがあります。今回、心臓血管外科医長の先生からは常に新しい医学的知識をアップデートし臨床に取り込んでいくことの重要性と、それと同時に外科医にとって基本的外科手技の重要性を実際の症例をもって教えて頂きました。心臓血管外科医を志す者として今後さらに医学的知識の向上と手術技術の研鑽に励んでいきたいと考えています。
現在、今回の過程で得た知識と考察を学術論文としてまとめております。初期研修医の期間にこの様な学術的経験をさせて頂いた事を非常に嬉しく思っております。
この場をお借りして、東京医療センターで初期臨床研修を行えている事と、御多忙な中御指導して頂きました心臓血管外科の先生方をはじめ東京医療センターの職員の方々に感謝を申し上げます。

指導医の声

心臓血管外科の変遷の中でいくつかのパラダイムシフトをへながら、確立された術式をより低侵襲化し、新しい外科的修復術を導入、open surgeryにとどまらず、カテーテル治療とのハイブリッド治療、さらにはendovascular surgeryを積極的にとりいれ、内視鏡やデバイスを効果的に利用することにより、時代の流れと必要性に対応していくことが重要です。心臓血管外科領域における診療にあたり、外科医としての技術を主とした修練のみならず必然的に広く全身を見ることになるわけですが、チーム医療によるタスクシェア、ワークライフバランスを保つことでより質の高い医療の提供を続けることを可能にします。
当院では、シンプルな症例から複合・複雑・希少な症例まで、さらに救急医療も充実しているため、幅広い症例を経験することが出来ます。診療科もその垣根なく、横断チームが多く構成されているため、総合力も高い環境にあり、心臓血管外科医として、また医師として、将来の目標に応じた礎を築くための良い職場であると思います。

病院見学について

いつでも可能です。手術予定日、非手術日いずれでも、それぞれの職場環境を見ることが出来ます。また、あらかじめ希望があれば関連する診療科についても合わせて見学することも可能です。

学術活動(学問的姿勢)について

研修医の学会発表

  • 松沢拓也、大迫茂登彦、河西未央、山邉健太郎、稲葉 佑、青木瑞智子.大動脈弁に発生したCalcified Amorphous Tumor の一例.第180回日本胸部外科学会関東甲信越地方会、東京、2019.06.08
  • 松沢拓弥、大迫茂登彦、山邉健太朗、河西未央、稲葉 佑、 青木瑞智子.胸部違和感を主訴に偶然発見された9cm の上行大動 脈瘤の1 例.第181回日本胸部外科学会関東甲信越地方会、東京、2019.11.9
  • 明楽一隆、大迫茂登彦、河西未央、尹亮元、山田敏之.大動脈弁に発生したCalcified Amorphous Tumor の一例.第177回日本胸部外科学会関東甲信越地方会、東京、2018.06.23
  • 大竹 遼、大迫茂登彦、河西未央、山田敏之、山邉健太郎.大動脈弁に発生したCarcinoid amorphous tumorの1例.日本循環器学会関東甲信越地方会、東京、2018.09.22
  • 森 義晴,大迫茂登彦, 内室智也, 山田敏之, 尹 亮元.外傷性大動脈損傷による胸部下行大動脈破裂の救命し得た1例.第173回日本胸部外科学会関東甲信越地方会,東京,2017.03.05
  • 上石 稜,大迫茂登彦,山田敏之,河西未央,尹 亮元.永久気管瘻を有した不安定狭心症に対して胸骨部分切開法とPAS-PORTによる中枢吻合を用い冠動脈バイパスを施行した一例.第175回日本胸部外科学会関東甲信越地方会,東京,2017.11.05

研修医の論文発表

Takuya Matsuzawa, Mio Kasai, Kentaro Yamabe, Yu Inaba, Michiko Aoki, Sota Oguro, Munehisa Sakamoto, Yasuhito Sekimoto, Akio Kawamura & Motohiko Osako, Successful endovascular treatment of an ascending aortic pseudoaneurysm using an Amplatzer Vascular Plug II. General Thoracic and Cardiovascular Surgery (Published online: 23 April 2020) https://doi.org/10.1007/s11748-020-01367-6

実験的経験

従来の見て学ぶという教育方法ではなく、より多くの外科医がより明確により効率よく修練し習得することができる環境を整えることが必要です。Off the job trainingとしての基礎的な手技の修練と手術室における管理・統括能力を養うための動物を用いた実践的かつ統括的トレーニングを行うことができればtechnical skillsnon-technical skillsをバランスよく身に着けていくことが可能となります。当院ではシミュレーターや動物臓器を用いた手技的修練を行う場があり、実践に向けた効率の良いトレーニングを行うことで、専門医取得の一助となるだけでなく、expert surgeonを目指すための修練となると思います。

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