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高度ロボット・内視鏡手術センター(呼吸器外科)

呼吸器外科領域のロボット支援下手術の現状

 2018年に肺悪性腫瘍(肺癌、転移性肺腫瘍など)に対する肺葉切除と縦隔腫瘍(良性、悪性)に対する摘出手術が、2020年に肺悪性腫瘍に対する区域切除、重症筋無力症に対する胸腺摘出術が保険収載されたことにより、呼吸器外科領域においてもロボット支援下手術(以下、ロボット手術)が急速に普及し始めました。

 近年、レビューやメタアナリシス、前向き無作為比較試験の結果からロボット手術は胸腔鏡手術と比較して同等かそれ以上の成績が示され、肺癌診療ガイドラインでも低侵襲手術のオプションの一つとして選択可能な位置付けになっています。2024年には肺良性疾患に対する肺葉切除・区域切除にも適応が拡大されました。

当科におけるロボット手術の現状

 当科では2023年8月よりダビンチSiを使用した手術(肺葉切除、縦隔腫瘍摘出術)を開始しました。同年11月にはSiの後継機であるダビンチXiの導入により、ロボット手術件数は増加しました。2025年10月31日の時点で肺癌、縦隔腫瘍、肺良性疾患に対するロボット手術の総件数は68件となりました。また2025年1月に導入したダビンチSPを使用し、同年8月15日に東京都内では第1例目となる肺癌に対するダビンチSPを使用した肺葉切除を行っています。

当科におけるロボット手術件数の年次推移と術式の内訳

手術件数

2023年 2024年 2025年(10月31日まで)
ロボット手術件数 5 27 36
全手術件数 117 108 107

ロボット手術の術式の内訳

  • 肺切除:葉切除61例(肺悪性腫瘍58例うちSP使用3例、肺良性疾患1例)、区域切除4例(肺悪性腫瘍2例、肺良性疾患2例)
  • 縦隔腫瘍摘出術3例

胸腔鏡手術とロボット手術の違い

 胸腔鏡手術の鉗子操作は直線的であるため、深部の操作ではブレが大きくなり、精密な操作が難しくなりますが、ロボット手術の場合は支点と作用点が一定のため安定した操作が可能です。また、多関節を有する自由度の高い鉗子と高精度カメラ(10~14倍拡大、4K+3D画像)による近接視で組織の細部まで確認することができ、より正確で精緻な操作が可能です。さらにロボット手術では胸壁への負担が少ないため胸腔鏡手術よりも痛みが少なく、早期の退院と社会復帰が可能となります。

ダビンチXiを使用した手術風景
ダビンチXiを使用した手術風景

ダビンチ Xiを使用したロボット支援下肺葉切除・区域切除術

 ポートの数および配置は施設によって様々で、それぞれに利点はありますが、当科では下記の4つのダビンチポートと1つの助手用ポートで行います。

 全身麻酔+肋間神経ブロックの上、第7肋間に8mmポート(①~③)を3か所(上葉切除の場合は第6肋間)、第8肋間前方に12mmポート(④)を留置し、ダビンチ Xi の4本のアームを使用します。また第10肋間前方には3cmのエアシールポート(⑤)(助手の操作、切除肺の摘出)を置き、二酸化炭素を送気しながら手術を行います。血管、気管支、肺の切除はダビンチ用のステープラー(SureForm)を使用しています。

視野展開が良好で、安全で安定した操作、精緻なリンパ節郭清も可能です。肺切除の基本術式の一つと考えております。

術後の状態、③のポート孔よりドレーンを留置しています
術後の状態、③のポート孔よりドレーンを留置しています

ダビンチ SPを使用したロボット支援下肺葉切除・区域切除術

 1本のアームにカメラと3本の鉗子を接続して1つの創で手術を行います。より侵襲が少なく整容性を向上させた手術として期待されています。

 肋間からの使用は適応になっていませんので、呼吸器外科領域では肋弓下から横隔膜を経由して胸腔内に到達して、二酸化炭素を送気下に手術を行います。

 全身麻酔+局所麻酔で開始します。第7~9肋弓下に4cmの切開を置き、肋弓下を剥離して横隔膜を一部切開して胸腔内に到達してアクセスポートを作成します。血管、気管支、肺の切除に関しては助手がアクセスポートから開胸・胸腔鏡手術で使用するステープラーを挿入して切除します。胸部に傷がなく、呼吸筋の損傷がないだけでなく、肋間神経障害も生じません。

術後の状態、創部よりドレーンを留置しています
術後の状態、創部よりドレーンを留置しています

ダビンチ SPを使用した剣状突起下アプローチ前縦隔腫瘍摘出術、胸腺摘出術

 剣状突起の下に4cmの縦切開を加えアクセスポートを留置します。二酸化炭素を送気下に前縦隔内の脂肪織(胸腺組織)を剥離しながら腫瘍を摘出していきます。

 ロボット手術では胸腔鏡手術とは異なりカメラ操作も術者が行えます。さらにダビンチ SPは1本のアームにカメラと3本の鉗子を接続できるため、狭い空間で安定した視野を確保できるだけでなく、安全で安定した操作が可能です。ダビンチ SPに最適な術式と言えます。

スタッフ紹介

呼吸器外科のスタッフ紹介をご覧ください。

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