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病気のはなし
【耳鼻咽喉科】

生活の質を保つ頭頸部がんの最新治療

「頭頸部(とうけいぶ)」とは脳を除いた顔から首にかけての範囲を指すもので、口腔(こうくう)や咽頭、喉頭、鼻腔、副鼻腔、唾液腺、甲状腺などが含まれます。食べることや話すことといった五感に影響を与える頭頸部がんは、生活の質を大きく落としてしまう点でも怖いがんといえます。

若年層に増えている中咽頭がん 理由はウイルス(HPV)の感染

 頭頸部がんのなかでも最も多くを占めるのが、舌がんを中心とした口腔がんです。口腔がんの原因としては飲酒や喫煙の習慣、また舌がんについては慢性的に歯が舌に当たるなどの原因も指摘されています。
 次に多いのが咽頭がん(上咽頭・中咽頭・下咽頭)で、なかでも下咽頭・中咽頭がんが多くを占めます。そのほか喉頭がんも頭頸部がんの主なもので、こうしたのどのがんは、飲酒や喫煙などによる発がん性物質の慢性的刺激が粘膜上皮に遺伝子変異を引き起こし、がん化へ至ります。
 頭頸部がんの好発年齢は50代から70代である一方、中咽頭がんは近年若い人たちに発症するケースが増えています。その主なものがHPV関連中咽頭がんで、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因です。HPVは性的接触によって口腔内に感染し、感染部位として特に扁桃や舌根部が挙げられます。長期間に渡って粘膜細胞に潜伏することでがん化を引き起こすとされています。
 頭頸部がんの症状は、部位によってそれぞれ異なります。咽頭がんや喉頭がんであればのどの違和感、声のかすれ、また舌がんの場合は舌に何らかの異変が生じるほか、痛みが出る場合もあります。舌の炎症は痛みが長く続く場合は要注意ですが、口内炎との区別がつきにくいのも難点です。ただ口内炎だと通常1~2週間もすれば痛みは引いていき、炎症もなくなっていきますが、舌がんの場合はそれがありません。2週間以上いつまで経ってもよくならない、むしろ症状が悪化していくようなときは、一度医療機関を受診されることをおすすめします。

がん細胞のみを破壊する最新治療 アルミノックス療法の実施も可能

 頭頸部がんにおける当科の治療の特徴としては、まずはエビデンスにのっとった標準治療を丁寧に行っていることが挙げられます。その上で、最新の方法を含めた多彩な治療法を行うのが強みで、たとえばアルミノックス療法と呼ばれる光免疫療法(下図)もその一つです。
 アルミノックス療法は、薬剤と光(近赤外光)を組み合わせてがん細胞を破壊する新しい治療法です。がん細胞に特異的に結合する薬剤(セツキシマブ・サロタロカンナトリウム:商品名アキャルックス)を投与し、その後に薬剤が反応する光を腫瘍部に照射して、がん細胞だけを選択的に破壊します。アルミノックス療法を実施している都内の医療機関は約6カ所とまだそれほど多くはなく、当センターはその中の1つとなっています。
 そのほか当科では2026年1月から、ダビンチSP(シングルポート)(下図)による中咽頭がんに対するロボット支援手術を開始する予定です。ロボット手術では口の中から器具を入れてがんを取り除くことができるため、傷が小さく、出血も少なくて済みます。またロボットのアームは細かく動かせるため、神経や血管などの重要構造を温存しながらがんを切除でき、声や飲み込みの機能を保ちやすいという利点があります。
 特にダビンチSPの場合、単一ポートによって1か所の小さな穴からアームを挿入して手術を行います。1本のスリムなアームで複数の器具を展開するため、口腔や中咽頭などの狭い部位でも自由に操作でき、患者さんの負担を軽減しつつ手術の正確性が向上します。

各科・多職種連携のチーム医療 難聴の「人工内耳」治療にも強み

 当科ではがんゲノム検査も実施しているほか、抗がん剤や放射線治療を合わせた集学的治療を推進しています。頭頸部がんに限りませんが、がんの治療には多方面からアプローチできる多彩な治療法があることは非常に重要です。その意味でも、あらゆる診療においてチーム医療を実践しているのも特徴で、術後再建を行う形成外科医、放射線治療を行う放射線科医のいずれも経験豊富であり、歯科口腔外科医も含めて毎週腫瘍カンファレンスを行うなど密接に連携しています。
 また、当科ががん以外に注力している疾患に、難聴における人工内耳の治療があります。人工内耳は聴覚を回復・補助する医療機器を用いた治療で、補聴器を用いても十分な語音聴取が得られない場合に、人工内耳の電極が聴神経を電気的に刺激して「音の情報」を脳に伝えます。壊れた内耳の代わりに、電気刺激で音を伝えるという仕組みです。
 当科には4名の言語聴覚士が所属し、術前・術後のフォローや調整も細かく行っていくことが可能です。こうした多職種連携によって患者さんのQOL(生活の質)を重視しながら診療にあたっていきます。

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