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病気のはなし
【血液内科】

もはや“不治の病”ではなくなった血液がん

一般的には相変わらず “不治の病”というイメージが強いのが血液がん(血液悪性腫瘍)かもしれません。けれど近年では、数々の新薬の登場や治療法の進化によって、治癒が期待できる病気へと変化しました。その中で今回、多発性骨髄腫と悪性リンパ腫について紹介します。

血液がんの中で多くを占める多発性骨髄腫と悪性リンパ腫

 血液がんというと真っ先に白血病を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、さまざまな病気があります。
 今回は、その中でも患者数の多い多発性骨髄腫と悪性リンパ腫について解説したいと思います。
 多発性骨髄腫は高齢者に多い血液悪性腫瘍の一つで、白血球の中のリンパ球のうちのB細胞が分化した形質細胞ががん化する病気です。正常な形質細胞は骨髄の中にあり、さまざまな細菌やウイルスに対する抗体を作っていますが、何らかの原因で遺伝子異常が起こってがん化し、骨髄の中で増えていくことで、正常な造血ができなくなります。また、異常なタンパク質(Mタンパク)を作ります。
 症状はさまざまですが、息切れなどの貧血症状、腎機能の低下、心臓機能の低下など全身に悪い影響を与えます。特殊な物質を出して、新しい骨を作る骨芽(こつが)細胞と古い骨を壊す破骨(はこつ)細胞のバランスを悪くし、破骨細胞だけを元気にしてしまうため、骨粗しょう症になり病的骨折を起こすこともあります。
 これらの症状をまとめ、C(高カルシウム血症)、R(腎障害)、A(貧血)、B(骨病変)の頭文字を取ってCRAB症状と呼んでいます。症状が無くても、血液検査で異常なタンパク質の量や貧血などが分かり、病気が疑われることがあります。その場合は、骨髄検査を行って病気を確定します。

正常な細胞に影響を及ぼさずがん細胞だけを狙う分子標的薬が進歩

 病気が判明したら、化学療法(投与された薬剤が全身をめぐる全身療法)を実施していきます。標準的な治療は、骨髄腫細胞の表面にあるタンパク質(抗原)を標的として攻撃する抗体薬と、細胞内の不要なタンパク質を分解する酵素の働きをブロックするプロテアソーム阻害薬、体中のリンパ球などの免疫を調整する免疫調整薬、そしてステロイド薬の4つの薬を組み合わせて行います。
 70歳以下と71歳以上で治療方針は変わりますが、今ではさまざまな薬があり、従来の殺細胞性(さつさいぼうせい)抗がん薬と比較して、正常な細胞に影響を及ぼさない、特定の標的を狙う分子標的薬が進歩しています。仮に初回治療の効果が見られなくても2次治療、3次治療の選択肢が用意でき、その中には、二重抗体薬という薬もあります。二重抗体薬とは、2種類の異なる標的(抗原)に同時に結合する人工タンパク質で、1つは抗腫瘍免疫を持つT細胞というリンパ球と結合し、もう一方が腫瘍細胞と結合して治療効果をもたらすものです(下図)。
 また、CAR-T細胞療法という最新の治療法もあります。免疫細胞であるT細胞をいったん体外へ取り出し、がん細胞を攻撃するように加工して体内へ戻す治療法で、当科ではCAR-T細胞療法を行う慶應義塾大学病院への紹介も可能ですからご相談ください。

ステージ4でも根治が可能 進化する悪性リンパ腫の治療

 一方、悪性リンパ腫は白血球の中のリンパ球ががん化する病気です。約100種類もの組織型が存在し、種類によって年単位、月単位、週単位で進行するものがあります。比較的、高齢者に多い病気ですが、タイプによっては20代、30代でも発症します。
 症状で一番明確なのは、首などの外から分かるリンパ節が腫れることですが、単なる炎症によるリンパ節の腫れが痛みを伴うのに対して、悪性リンパ腫だと痛みがありません。痛みのないリンパ節の腫れが続けば要注意といえます。加えて特徴的な症状には、原因不明の発熱や寝汗、体重減少などが見られます。
 悪性リンパ腫は、肺がんや大腸がんなどの固形がんと比較して、化学療法の効果を発揮しやすい病気で、ステージ4でも根治が望めます。患者さんができるだけ早期に社会復帰できるよう、治療を組み立てていくことが求められます。
 現在、血液がんはあらゆる悪性腫瘍の中で、最も化学療法の効果が期待できる病気といわれます。治癒ができなくても的確な治療を行って寛解を長く保つことで、高齢者だと寿命を全うできるくらいの生存が可能になります。特に高齢者は複数の病気をお持ちの方が多いため、疾患に合わせて薬を使い分ける個別化治療、負担の少ない低侵襲治療が重要です。また、血液がんの場合、遺伝子パネル検査を用いてのゲノム医療も診断の段階から可能です。
 当科ではあらゆる治療法において、地域医療との連携を積極的に持ちながら、常にチーム医療を重視しています。医師のみならず、薬剤師、看護師、ソーシャルワーカーなどの総合力で患者さんにふさわしい医療を提供してまいります。

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