しっかり治し QOLを保つ最新乳がん治療
乳がんは、この50年で増えてきた病気です。一方で近年は、手術、乳房再建、薬物療法などが進歩し、がんの治療だけでなく、治療後のQOL(生活の質)にも配慮した選択肢が広がってきました。ここでは、乳がんのタイプごとの治療と、体への負担や見た目にも配慮した最新の治療についてご紹介します。
乳がん治療で大切なのは根治性と整容性を両立すること
現在、乳がんは女性の9人に1人がかかるとされる身近な病気です。男性にも発症することはありますが、多くは女性にみられます。
近年、乳がん検診受診率の向上と画像診断法の進歩により、早期乳がんの発見数は大きく増加しています。早期発見によって治療成績は大きく向上しており、ステージⅠの5年生存率は約99%と非常に良好です。今後も検診受診率を上げていくためのいっそう取り組みが求められているところです。
乳がんは40歳代後半から50歳代に多くみられ、この年代は、子育てや仕事など、生活の中で大切な役割を担っている方も少なくありません。そのため、がんを治療することに加えて、QOL(生活の質)をできるだけ保つこともとても重要です。
そのため、乳がん治療では、がんの治療効果に加えて、治療後の生活や乳房の見た目にも配慮することが大切です。見た目の変化は、気持ちの負担につながることもあります。近年は、こうした点にも配慮した治療法が増えてきました。
ロボット支援手術やラジオ波焼灼術体への負担や見た目にも配慮した治療
乳がん手術は、乳房再建手術が保険適用となって以降、乳房全摘の後も、再建手術によって乳房のふくらみを補うことができるようになりました。当科においても、乳がんの切除手術と同時に再建手術を行える場合があります。
また、2025年12月から、ロボット支援下乳輪温存乳房切除術を当科で開始しています。これは、早期乳がんの方で条件を満たす場合に検討される手術の一つで、がんの治療と見た目への配慮の両立を目指す方法です。手術には、手術支援ロボット「da Vinci(ダビンチ)SP(シングルポート)」を用います。
この手術では、約3〜4センチの小さな切開部からカメラや手術器具を入れて行います。傷が比較的小さく、体への負担や術後の見た目に配慮しやすいことが特長です。
もう一つの治療選択肢として、「ラジオ波焼しょう灼しゃく術」があります。ラジオ波焼灼術は、高周波の熱を利用して、がんに刺した細い針の先から熱を加える治療です。もともとは肝臓がんなどで行われてきた方法を、乳がんに応用したものです。早期の乳がんなど、一定の条件を満たす場合に検討されます。当科の副院長・木下貴之は、この治療の臨床研究にも深く関わっており、2023年の保険適用にも携わってきました。
乳がんのタイプに合わせて治療を選ぶ進歩する薬物療法
乳がん治療では手術が中心となることが多い一方、手術の前後に薬物療法を行うこともあります。乳がんは、がん細胞の性質によっていくつかのタイプ(サブタイプ)に分かれており、タイプによって効きやすい薬が異なります。そのため、検査結果をもとに、一人ひとりに合った治療を選んでいきます。
「ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん」は、乳がんの中で比較的多いタイプです。進行が比較的ゆるやかなことが多く、ホルモン療法が治療の中心になります。
「HER2陽性乳がん」は、乳がんの約15〜20%を占めます。増え方が速い傾向がありますが、HER2を標的にした薬の登場により、治療の選択肢が広がっています。
「トリプルネガティブ乳がん」は、乳がんの約10〜15%を占め、比較的若い年代でみられることがあります。進行が速いこともありますが、近年は免疫療法など新しい治療法が加わり、治療の幅が広がってきました。
近年は、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)にも注目が集まっています。これは、若い年齢で乳がんを発症したり、両側の乳房に乳がんができたり、乳がんや卵巣がんのご家族が複数いる場合などに考慮されるものです。
若い年代で乳がんを発症すると、結婚や妊娠、出産を考える時期と重なることがあります。そのため近年は、治療前に卵子凍結などについて相談し、将来の妊娠・出産に備える選択肢も広がっています。