スタルガルト病治療薬候補の国内承認申請と東京医療センターの治療導入への取り組み
治療薬候補国内承認申請
独立行政法人国立病院機構東京医療センターは、スタルガルト病の治療薬候補Tinlarebant(開発コード:LBS-008)について、日本人患者を対象としたDRAGON II試験の第1b相部分を実施・完了しました。この試験は国内単施設で実施され、藤波芳(視覚研究部 視覚生理学研究室 室長)が治験責任医師を務めました。
ビライトバイオ株式会社は2026年9月7日、海外の第III相DRAGON試験および国内のDRAGON II試験の第1b相部分の成績に基づき、本剤の国内製造販売承認申請を行ったと公表しました。
治験にご参加いただいた患者・家族の皆様に心より感謝申し上げます。あわせて、治療導入に向けた、当院の研究および患者支援の取り組みをお知らせします。
なお、承認申請は、承認の取得や通常診療での処方開始を意味するものではありません。
スタルガルト病について
スタルガルト病は、遺伝性網膜ジストロフィ(IRD)のひとつです。ものを細かく見分けるために重要な網膜の中心部「黄斑」などが障害されます。読書や人の顔の識別、学校での学習などに影響することがあります。代表的な病型であるスタルガルト病1型(STGD1)は、ABCA4遺伝子の病的な変化に起因します。小児期や若年期に発症することが多い一方、成人後に症状が現れる場合もあり、見え方や進行の速さには個人差があります。現在までに承認された治療がありません。
国際共同研究を治療開発につなぐ
視覚生理学研究室は、20年以上にわたり遺伝性網膜ジストロフィの視機能評価、遺伝学的診断、自然歴研究を積み重ねてきました。特にスタルガルト病の治療導入を目的とした、国際共同研究に長年取り組んできました。
英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)とムーアフィールズ眼科病院との共同研究では、2013年には電気生理検査による視機能の長期経過と、眼底自発蛍光画像による網膜萎縮の進行を評価した研究を報告しました。[4、5]2015年には、小児発症例の臨床像と遺伝学的特徴を報告し、この成果が現在の治療選択の指針となっています。[3]
2019年には国際共同の自然歴研究ProgStar研究の遺伝学的解析を、2024年には病態・自然歴と薬物・細胞・遺伝子治療などの開発動向を整理した総説を、それぞれ発表しました。[1、2]これらの研究は、患者ごとの病態や臨床試験の対象・評価についての基盤となりました。これらの研究成果の蓄積が日本人患者へ治療薬候補を届ける際に大きな鍵となっています。
患者会との対話と連携
視覚生理学研究室では、長年にわたり医療情報の提供や患者・家族同士の交流を通じて患者会の支援を行ってきました。日本網膜色素変性症協会(JRPS)やStargardt connectedと連携のもと、患者・家族・関係者の声を聴き、遺伝性網膜ジストロフィ(IRD)についての正しい医療情報の提供に努めてきました。
さらに、2026年2月に日本科学未来館で行われたIRD患者・家族の交流を契機に設立されたIRD患者家族会「みらい」の立ち上げを専門的見地からサポートしてきました。同会とはスタルガルト病を含むIRDのピアサポートや医学研究への患者・市民参画のあり方について意見交換を続けています。
これらのやり取りからは、治療開発の情報に加え、学習や就労などの生活環境、家族同士のつながりに関する情報も求められていることがうかがえます。患者会の自主的な活動を尊重しながら、患者・家族が必要な情報や支援にたどり着けるよう協力してまいります。医学的な情報を伝えるだけでなく、生活の中での困りごとや治療への希望を伺い、今後の研究や治験における説明・支援に生かすことを目指します。
患者・家族へのご案内
本発表は、当院の臨床研究と患者支援に関する情報提供です。薬剤の国内承認の可否、対象となる患者の範囲、通常診療での使用開始時期は、今後の審査等によります。承認申請をもって、当院での処方や治験への参加が可能になるものではありません。
今後の研究・治験に関する情報は、企業ウェブサイトおよび各試験の公開登録情報でご確認ください。治験には試験ごとに参加条件があり、参加の可否は医師が個別に確認します。
問い合わせ先
患者・家族および研究内容に関するお問い合わせ
国立病院機構東京医療センター 視覚研究部 視覚生理学研究室
担当 藤波 芳
E-mail fujinamik.comgmail.com
TEL 03-3411-0111(代表)
報道関係者からのお問い合わせ
国立病院機構東京医療センター 総務課 庶務係長
〒152-8902 東京都目黒区東が丘2-5-1
TEL 03-3411-0111(代表)
詳細は下記の「プレスリリース(PDF)」をご参照ください。
主な関連研究と参考情報
国内承認申請に関する公表情報 ビライトバイオ株式会社 2026年9月7日
「スタルガルト病」治療薬候補Tinlarebantの日本国内製造販売の承認申請のお知らせ
第1b相試験成績
Fujinami K, Scholl HP, Mata NL. Pharmacokinetic and Pharmacodynamic Properties of an Oral Investigational Treatment for Stargardt Disease in Adolescent Japanese Patients.
Invest Ophthalmol Vis Sci. 2025;66:1431.
[1]藤波芳らによる病態と治療開発の総説
Br J Ophthalmol. 2024;108(4):495–505. DOI: 10.1136/bjo-2022-323071
[2]藤波芳らによるProgStar研究の遺伝学的解析
Br J Ophthalmol. 2019;103(3):390–397. DOI: 10.1136/bjophthalmol-2018-312064
[4]藤波芳らによる視機能と電気生理の長期経過研究
Am J Ophthalmol. 2013;155(6):1075–1088.e13. DOI: 10.1016/j.ajo.2013.01.018
[5]藤波芳らによる眼底自発蛍光と網膜萎縮の進行に関する研究
Invest Ophthalmol Vis Sci. 2013;54(13):8181–8190. DOI: 10.1167/iovs.13-12104
藤波芳の主な関連論文10報と各論文の概要は、別紙をご参照ください。文献番号は本文・別紙で共通です。