各がんの具体的な治療方法
前立腺がん
高精度な外照射を1か月で行う強度変調放射線療法(IMRT)とともに、5回で終了する定位照射を積極的に推進しています。機器や技術の進歩により、強力な照射でも重篤な副作用を抑えられます。前立腺内に放射線源を埋め込む小線源治療や、定位照射で補強した小線源治療は局所効果の非常に優れた治療です。また、ロボット手術後の再発にはIMRTが第一選択です。ホルモン治療の併用も含めた多くの選択肢からあなたに適した治療法を相談します。リンパ節転移が腫大している場合にはリンパ節領域へのIMRTを併用しています。治療後に再発や転移がでてきても、2,3か所であれば、定位照射やIMRTで対応し、ホルモン治療と上手に付き合う道を一緒に考えていきます。自分の病状を知り、生き方をよく考え、あなたにとって一番良いと思う治療を選択するお手伝いをします。なお、当院の前立腺がん新患者数は年間400名を超えており、実際の治療現場では、定位照射、IMRT、小線源治療、手術がほぼ同等に、かつ上手に組み合わせながら実施されています。
限局性前立腺がんの治療法を選択するヒント
どの治療法を選んでも多くの方が5-10年以上生きられる病気です。高齢で体力のない方には通院のみによる外照射法(IMRTや定位照射)が負担も副作用も少なくて楽な治療です。仕事などで多忙な方や通院困難な方には5回通院(隔日)で済む定位照射も良いでしょう。悪性度が高く、進行している場合など、ホルモン治療を併用する必要があっても、薬物投与をなるべく短期間にできないか相談します。当院では必ずCTとMRIを同時に利用する高精度な治療計画を行い、可能な場合は病巣部の線量を増加しています。直腸出血などの後遺症を最小限にするためには直腸スペーサーが有効であり、腰椎麻酔と1泊入院が必要です。ただし、腰椎麻酔や尿道カテーテル挿入がどうしても苦手な方には、気軽に通院のみで完了するIMRTなど、別の方法も提案します。また、3泊の入院で行われている小線源治療は手術に比べて負担の少ない治療であり、当院は国内で最も豊富な経験があります。悪性度の高いがんに対して再発を少なくする強力な治療を希望する場合には小線源治療と定位照射を併用する方法があり、当院は積極的に推進しています。さらに、小線源+IMRT/定位照射+6か月ホルモン治療(Trimodality)は国内で研究開発された実績のある治療方法です。なお、前立腺の放射線治療では精液は減ります。勃起能の維持を気にされる方は事前によく相談しておきましょう。
膀胱・尿管・腎臓がん
膀胱がんは膀胱全摘以外に薬物+放射線療法の選択肢があります。近年は放射線の治療成績が向上しており、重要な選択肢です。膀胱全摘を避けたい方は是非ご相談ください。余生のQOLをよく考えて、自分の人生観に合った治療を選択しましょう。腎臓がんには定位照射が大変有効であり、近年はたいへん積極的に行っています。精巣がんにも放射線は有効です。どの泌尿器がんに対しても手術以外の治療法が選択できるか、早めに相談してみてください。
乳がん
温存乳房や全摘術後の放射線治療は世界標準です。温存術後には3週間の短期照射が欧米では普及し、当院でも積極的に行っています。再発リスクに応じて病巣部やリンパ節への追加照射を検討します。他臓器への影響を最小限にするため、最近はIMRTの利用も増えています。左側の乳房照射の場合、心臓への影響を避けるために息止め照射を行います。病巣が1㎝以下の場合には、手術をせず、ラジオ波焼却と照射の組合せが増えています。長期観察が必要であり、乳腺外科や他院との連携は重要です。
頭頸部がん
咽頭、口腔、鼻腔副鼻腔、眼窩、唾液腺など、耳鼻科領域は多数の原発巣からさまざまな種類のがんが発生します。顔貌を損なう手術を避け、形や機能を守る放射線治療は古くから大切な治療法として確立してきました。当院では耳鼻科や口腔外科との連携が古くから良好であり、口腔、唾液腺や希少癌を含め、頭頸部がんの放射線治療の経験が非常に豊富です。再発を予防する術後照射も大切な役割を有しています。
肺がん
早期がんには定位照射が大変有効で、手術と並び、世界の標準治療です。当院では積極的に推進しています。進行がんには薬物療法と強度変調放射線治療を用います。治癒例や長期生存が世界中で増えています。骨や脳、リンパ節の転移に対する定位照射も一般的になりました。2,3か所の転移に対しては定位照射を積極的に利用します。これらが免疫薬物療法との相性も良いことが分かっています。
消化器がん
食道、胃、直腸、肝胆膵、肛門のいずれにも放射線を含めた集学的治療は世界標準です。昔から当院は食道がんを切らずに治すことで有名であり、化学放射線療法が確立しています。切除不能な胃がんや消化管出血、狭窄に対して放射線治療は有用です。肛門がんも切らずに薬と放射線で治すのが一般的です。膵臓や肝臓のがんへの定位照射は有効であり、からだへの負担が少なく、当院では積極的に推進しています。直腸がんの術前照射は世界標準であり、当院でも積極的に行っています。今後は切除を省略できる可能性も注目されています。大腸がんからの転移巣に対する定位照射も行っています。
婦人科がん
子宮頸がんには強度変調放射線治療と小線源治療の併用が世界標準です。当院は早くから欧米基準の治療を行っており、IMRTから開始します。小線源治療は最新の技術を用いた腔内照射と、必要に応じて組織内照射を併用するハイブリッド小線源治療を積極的に推進しています。高線量を安全に投与することにより、高い制御率と少ない副作用を期待できます。また、小線源治療の処置中の苦痛を減らすため、麻酔(鎮痛鎮静法)を一早く取り入れてきました。安全性を担保し、苦痛のないように入院管理を原則とし、患者さんの気持ちに寄添うよう努めます。麻酔や入院については個別に相談します。体がんにも同様の照射法が有効であり、体力的に手術のできない方にはお勧めします。欧米では体がんの術後照射が一般的です。婦人科との連携が重要です。卵巣がんの再発転移にも放射線治療や定位照射は有効です。
悪性リンパ腫
リンパ腫は放射線感受性が非常に高く、僅かな放射線量でも腫瘍が消失します。薬物療法が発達したため、血液内科との連携が重要です。薬物療法が進んだ現在でも、再発病巣を治したり、薬物を使わずに治したり、上手に併用することで、患者さんの生活の質を高めたり、長生きすることに貢献しています。すべての臓器にわたる病気であり、治療効果が高く、多くは強度変調放射線治療の良い適応です。
脳腫瘍
いろいろな脳腫瘍があり、切除後の放射線治療は標準治療です。切除不能な場合や再発後の再照射も一般的です。
軟部肉腫
四肢の温存のために術後照射が一般的であり、強度変調放射線治療の良い適応です。腹腔内の大きな肉腫にも適応があります。再発や転移に対して定位照射が利用されています。整形外科との連携がポイントです。
皮膚がん
世界で最も多いがんです。日本では普及していませんが、放射線治療は世界標準です。切らずに治すことができ、形態を維持できる利点があり、効果は良好です。
骨転移
がんの骨転移による疼痛に対しては1回の照射でも除痛効果が期待できます。長期制御や骨再生のために数回照射を行うこともあります。痛みや麻痺を生じる背骨の転移には定位照射が特に有効であり、整形外科や緩和ケア科との連携や合同カンファレンスが鍵になります。当院では脊椎定位照射を積極的に行っています。
緩和照射
がん特有の痛みや様々な症状で患者さんが苦しむことがあります。これらの苦痛症状を軽減し、QOLを維持・改善することを目的として行う放射線治療を緩和照射と呼びます。骨やリンパ節、臓器転移に伴う痛みやしびれ、がんによる様々な部位の出血、気道や消化管の狭窄症状、脳神経や感覚器が圧迫されて生じる苦痛や神経症状、がん浸潤による皮膚や粘膜の潰瘍など、がんの進行に伴う様々な症状の軽減・緩和に有効です。緩和目的の場合には、放射線治療の副作用も少なく、1回から数回の照射で効果が得られやすいとされています。しかし、わが国では、欧米諸国と比べると放射線治療が十分活用されていません。緩和照射が十分普及していない要因としては、①骨転移等に関する医療機関間の地域連携が十分でないこと、②院内で多職種連携の仕組が整っていないこと、③一般医師の緩和照射についての知識が十分でないこと、④市民が放射線治療について正しい情報を得られる機会が乏しいこと、などが挙げられます。当院ではこのようなことを減らすべく、緩和ケアや緩和照射の普及に取り組んでいます。詳細は日本放射線腫瘍学会のHPをご覧ください。
脳転移
がんの脳転移に対してはピンポイント照射や強度変調放射線治療の良い適応です。術後でも再発予防のために術後巣へのピンポイント照射が標準となりました。
少数転移
お元気な方であれば、少数の転移巣に対してピンポイント照射の適応が保険で認められています。抗がん剤治療を遅らせるほか、免疫薬物療法の効果を高めるために有効な方法です。
再照射(2度目の照射)
条件は限られますが、一度照射した部位に再度放射線治療を行うこともあります。小線源治療やピンポイント照射の適応になります。
良性疾患
ケロイドや血管腫などにも放射線治療は有効です。最近は難治性不整脈や特殊な神経痛に対しても研究が進んでいます。