前立腺がん

前立腺がん

東京医療センターでは、小線源療法、前立腺全摘術(ロボット支援)、外部照射療法(IMRT、定位照射)、 ホルモン療法、化学療法等、広い範囲での治療選択が可能となっています。 そのため当院は前立腺癌患者さんの数において、全国でも有数の施設となっています。

放射線治療、手術療法共に経験症例が極めて豊富であることが当院の強みです。患者さんに治療前後にアンケートをお願いし、尿漏れや勃起機能などの機能についてのフィードバックを頂いて治療技術の向上に努めています。集計結果を俯瞰すると年を経る毎に治療成績は改善がみられており、施設としての熟練度が治療成績に影響することを実感しております。

積極治療の2本の柱として手術療法、放射線療法がありますが、当院は手術療法では傷が1-2か所で完結するDaVinci SPシステムを導入しており、放射線療法では小線源治療において国内随一の経験を有しています(下記詳述)。

いずれも他の施設に少ない専門性の高い治療手段です。他の治療手段に関しても豊富な治療実績があります。

小線源療法

本邦最多の治療経験より

東京医療センターでは、2003年に国内初のヨウ素125シード線源永久挿入による小線源療法を実施し、 その後の19年間に4300例を越す症例の経験を通じて、重篤な合併症はみられず、この治療の高い有効性と安全性を確認しています。

治療は通常4日間の入院で終了し、前立腺癌のほかの治療に比べて短期間で済みます。 治療後に尿が出にくくなったり、尿が近くなったりなどの症状は一時的にみられることがありますが、 日常生活を大きく害することは通常ありません。

また、この治療では性機能の温存率が高く、 国内外の報告では治療後に機能が保たれる割合は60~70%とされていて、 前立腺癌治療の中においては良好なものとされています。

このようにシード線源を用いた小線源療法は、治療に要する時間が短く、 合併症も少なく、生活の質もよく維持され、そして治療効果も高い治療法であり、 日本でも早期前立腺がん治療のひとつとして確立したものとなっています。

これまでに国内100以上の施設でこの治療が実施され、 2021年末には50,000例を越す治療がなされています。

小線源治療については下記リンクにてご覧ください

小線源治療の説明 (PDF: 599KB)

LDR小線源治療による前立腺癌治療

当院における治療成績

小線源療法が開始された当初は、 遠隔転移およびリンパ節転移のない低リスクまたは中間リスク群のみが治療対象と考えられていましたが、 長期のデータでは高リスク群においてもホルモン療法を併用することで良好な成績が得られており、 現在ではそのような患者さんにも治療を行っています。

当院でのリスク分類は下記のとおりです。 この分類は小線源治療方針を決めるためのものであり、他のリスク分類とは異なります。 小線源治療は手術と異なり、治療後の病理検査ができません。 そのため適切な治療方針を決める際にはMRI画像検査を重視します。 そのため、他施設とは異なる治療方針を提示させていただくことがあります。

以下に当院で小線源療法を実施した症例のリスク別の長期成績を示します。

ロボット支援手術

手術支援ロボットDaVinci Xi/SPシステムの導入

2012年4月から前立腺がんに対するロボット支援下根治的前立腺全摘除術(RARP)が保険適応になりました。 現在日本では300台以上の手術ロボット(DaVinci;ダ・ヴィンチ)がすでに導入されています。 米国では前立腺がんの手術の95%以上がRARPで行われています。 当院でも2013年10月にダ・ヴィンチを導入し、適宜アップグレードを行いながら年間100例程度施行しています。

ロボット手術の長所としては、傷が小さいため社会復帰が早い点、術中の出血量が極めて少ない点、 術後の尿失禁の回復が早い点、勃起能の温存率が高い点などが挙げられます。

当院では現状一般的に普及しているDaVinci Xiシステムという汎用性・操作性に優れた機器に加え、2025年1月より1つの切開創からカメラと複数の専用鉗子が入るDaVinci SPシステムを導入しております。従来のXiシステムであれば前立腺全摘除術において6個必要であった小さな切開創が、このシステムでは2つで行えるようになりました。このシステムは高額であること、操作がやや特殊であることから導入している施設は国内では限られており、2025年1月現在国内で約10台が稼働しています。繊細な体腔内操作を極限まで小さい切開創で行える、まさに近未来的な治療と言えます。

術式の詳細、傷跡に関してはロボット手術センター(泌尿器科) - 独立行政法人国立病院機構 東京医療センターを御参照ください。

Q.前立腺がんとはどのような病気なのでしょうか。
A.前立腺がんは、男性特有の臓器である前立腺にできるがんです。前立腺は膀胱の出口付近を囲むクルミ大の組織で、真ん中を尿道が貫いていて、若い頃には精液を作る役割を果たしています。前立腺がんの患者数は男性のがんの中で最も多くを占めるものです。早期発見できれば生存率は高く、5年生存率は99%程度という「進行の遅いがん」といえます。他方、進行すると骨やリンパ節、肺、肝臓などに転移します。がんが転移したステージⅣの状況での5年生存率は60~70%程度です。早期発見、早期治療が非常に重要ながんといえます。
Q.前立腺がんの患者さんが訴える主な症状を教えてください。
A.早期の前立腺がんは多くの場合症状を来たしません。進行すれば尿道の圧迫による排尿しにくさや排尿時の違和感、血尿、あるいは転移による骨の痛みなどが現れる場合があります。これらの症状が生じた場合には癌がある程度進行してしまっている可能性があり、症状が起きる前に発見し早期に治療を行っていくことが重要となります。前立腺がんの早期発見を容易にしたのが採血による「PSA検査」であり、50歳を過ぎたら一度は受けるべきでしょう。
Q.前立腺がんが疑われた場合、どのような検査を行いますか。診断までの流れについて説明してください。
A.前立腺がんの精密検査は、まずMRIを撮影し異常信号が無いかを確認します。MRIで全てのがんが診断できるわけではありませんが、転移しやすい、進行が速い危険ながんほどMRIで判別しやすいと言われています。MRIでがんが疑われる場合やPSAが段々と上昇しているケースでは、麻酔下に肛門の中や会陰部(陰嚢と肛門の間)から特殊な針を刺して組織を採取して調べる検査(前立腺生検)を行います。当院ではMRI画像と3D超音波検査のデータ、さらにナビゲーションによってがんの位置を正確に把握して行うMRIフュージョン生検も実施しています。生検では、前立腺がんの有無だけで なくその悪性度を判定できます。前立腺がんは骨やリンパ節 に転移しやすいため、診断がついた場合にはCTと骨シンチ検査を実施して、病気の広がり(病期)を判定します。これら悪性度や病期などのデータ以外にも年齢や健康状態、ご本人の希望等を総合的に検討して、最終的に治療方針を決定します。
Q.前立腺がんが発見された場合、治療方針をどのように決められるのでしょうか。
A.早期前立腺がんに対しての積極治療は大きく分けると放射線療法、手術療法に大別されます。治療方針は各治療の長所短所を踏まえて選択する必要があります。

当院では前立腺がんに対する放射線療法として、体外から放射線を当てるIMRTと定位照射、また前立腺内部から放射線を当てる小線源療法(小さな粒状の線源を前立腺内に留置する治療法)を行う事が可能です。特に小線源療法では国内随一の症例数を経験しており、実績とノウハウが蓄積されております。放射線治療は概して体を切らずに済むため社会復帰が極めて速く、体へのダメージが少ないことが利点になります。一方、直腸や膀胱など周囲の臓器への被ばくを伴ってしまう為、排尿時の違和感や血尿、血便などが生じるリスクがあります。当院では副作用低減の為、Space OARという直腸への放射線被ばくを軽減するためのゲル(Spacer)を積極的に使用しています。直腸に当たる放射線の量を減らし、副作用を最小限に抑えます。

当院では前立腺がんに対しての手術療法としてロボット支援下前立腺全摘除術を採用しています。手術支援ロボット(DaVinci)を用いての腹腔鏡下手術(お腹の中に二酸化炭素を充填し内視鏡で覗きながら行う手術)です。従来の開腹手術に比べて傷が小さいため社会復帰が早い、術後の尿失禁の回復が早い、勃起能の温存率が高い事などが報告されています。メリットとしては原発巣を切除してしまう為根治性に優れる事、再発時にも排尿症状が出にくい事、被ばくによる症状が生じない事が挙げられます。デメリットとしては全身麻酔での手術が必要になること、一定の確率で勃起不全・尿漏れが生じる事が挙げられます。当院では尿失禁の予防・勃起機能の温存の為に神経温存術式という、排尿・勃起に関わる神経を温存する術式を積極的に行っております。また術後の疼痛を少なくするために、2か所の切開創で手術を行う事が出来るDaVinci SPシステムを導入しています(従来の最新のDaVinciシステムでは6か所の切開創で手術を実施していました)。

これら長所短所を説明の上での患者さんの意向に加え、腫瘍・体の状態等も踏まえて総合的に判断していきます。
Q.小線源治療の標準的な治療後から退院までの流れ、期間を教えてください。
A.小線源治療の場合、治療前日に入院し、3泊4日間の入院で治療を行っています。治療当日は腰椎麻酔で2-3時間程度かけて小線源を前立腺内に挿入します。治療当日はベッドの上で安静にしていただき、翌日の朝問題なければ画像検査後に尿管を抜去、治療翌々日に退院となります。
Q.ロボット支援手術を受ける際の標準的な治療後から退院までの流れ、期間を教えてください。
A.手術前日に入院し下剤を使用し、手術当日は全身麻酔で治療を行います。当日はベッド上で安静にしていただき、大きな問題がなければ翌日より飲水、食事、歩行を開始していきます。前立腺の手術の場合、摘除した前立腺の上下で尿道を縫合して修復します。この部分が安定するまで、当院では5日程度尿道カテーテルを留置し、抜去後2日間様子をみてから退院としています。標準的な入院期間は8日から9日程度です。
Q.手術後、起こりえる合併症や症状についてどのように対処されているか教えてください。
A.術前から、尿失禁予防の為の体操を指導しております。尿失禁の予防・勃起機能の温存の為に神経温存術式という、排尿・勃起に関わる神経を温存する術式を積極的に行っております。また術後尿失禁に対して専門的な知識を持った排尿ケアチームが必要に応じて個々の患者様に介入してサポートを行っています。
(Q and A 文責:服部 盛也)
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