ロボット手術センター(泌尿器科)
最新情報
- 2023年11月01日
- 当院にdaVinciサージカルシステム(Xi)が導入され、ロボット2台体制での運用となりました
- 2022年09月21日
- 当院泌尿器科服部盛也医師が日本ロボット外科学会公認 Robo-Doc Pilot 国内A級を取得しました
- 2022年06月03日
- ロボット支援腎部分切除術が計100例を突破
- 2022年06月03日
- ロボット支援膀胱全摘除術が計30例に到達
- 2020年09月01日
- ロボット支援腎盂形成術を開始
術式一覧
2019年までの集計になりますが、日本内視鏡外科学会の出している資料によれば、全国的にも泌尿器科領域で低侵襲手術(腹腔鏡手術/ロボット支援手術)の症例数が増えていることが分かります(図1)。またその内訳をみれば、ロボット支援手術の割合が急速に伸びている事が見て取れます。
泌尿器科は他科に先駆けて、本邦では2012年よりロボット支援腹腔鏡下手術が保険適応となり、またその後も適宜術式が追加された為、2019年時点でロボット支援腹腔鏡手術の過半数が泌尿器科領域の手術となっています(図2)。本邦のロボット支援手術の領域においては最も古参の科となっています。
2024年1月現在、泌尿器科領域で施行可能なロボット支援下の術式は下記の8つになります。
以下それぞれの術式と当院での現況について簡潔に説明いたします。
ロボット支援腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術(Robot assisted laparoscopic radical prostatectomy : RARP)
本邦では2012年よりロボット支援下前立腺全摘除術が保険収載となりました。当院では2013年10月にロボット支援下前立腺全摘除術を導入致しました。2024年2月現在までで約830例の手術を当院で行っております。ロボット手術支援腹腔鏡下根治的前立腺摘除術は、腹腔鏡下根治的前立腺摘除術をロボット支援下に行うものですが、従来の手術法に比べてより繊細で、正確な手術を行うことができ、根治性、尿禁制(尿失禁がない状態)を含む機能温存においてより優れていると考えられています。前立腺がんの質によっては、骨盤内拡大リンパ節郭清(骨盤の中のがんの転移しやすいリンパ節を切除する術式)を追加しております。
ロボット手術の長所としては、傷が小さいため社会復帰が早い、術中の出血量が極めて少ない、術後の尿失禁の回復が早い、勃起能の温存率が高いなどが挙げられます。尚、尿失禁の予防・勃起機能の温存の為に神経温存術式という、排尿・勃起に関わる神経を温存する術式も積極的に行っております。また、術後尿失禁に対して専門的な知識を持った排尿ケアチームが必要に応じて個々の患者様に介入し、少しでも患者様の生活の質を上げられるよう日々取り組んでいます。
当院でのRARP症例の内、術後生活状況に関する質問票が術後12か月分まで揃っている444症例に関する治療結果を次に示します。
- 緊急開腹手術への移行例:0例
- 他臓器損傷:0例
- pT2症例での断端陽性率:5.0%
- 片側勃起神経温存による勃起能温存率:39.2%
- 両側勃起神経温存による勃起能温存率:68.1%(勃起能については質問票で確認)
- 術後3ヵ月時点での尿失禁率:31.3%
- 術後6か月時点での尿失禁率:15.0%
- 術後12か月時点での尿失禁率:9.7%(パッド一日使用枚数が2枚以上:質問票で確認)
この術式において最も重要になるのが制癌性、次いで勃起能の維持/尿漏れの防止等の機能維持になります。多臓器損傷や緊急開腹手術への移行例は無く、当科のRARPは極めて安全に施行されていると言えます。
pT2とは術後の病理組織検査で前立腺内限局がんであった場合のことをいいます。断端陽性、つまり腫瘍が切除面に露出する確率は5.0%と低く、制癌性が担保されていると言えます。勃起神経温存率も諸家の報告によると片側温存で40%前後、両側温存で55%前後ですが、当院の成績は比較して良い水準にあると言えます。術後の尿漏れを懸念される方も多いと思いますが、当院における術後3ヵ月の時点での尿失禁率は31%、6ヵ月後では15%です。大部分の方が術後6ヵ月以内には尿禁制が保たれるようになっています。
2020年以降で質問票の揃っている199症例に絞って解析を行うと、
- pT2症例での断端陽性率:5.3%
- 片側勃起神経温存による勃起能温存率:40.9%↑
- 両側勃起神経温存による勃起能温存率:80.0%↑(勃起能については質問票で確認)
- 術後3ヵ月時点での尿失禁率:20.1%↓
- 術後6か月時点での尿失禁率:11.6%↓
- 術後12か月時点での尿失禁率:8.0%↓(パッド一日使用枚数が2枚以上:質問票で確認)
と、症例数が増えるのに従って周術期成績が改善してきていることが示唆されます。我々は更に良い治療結果を患者の皆様にお届けすべく、日々最新の知見を取り入れながら術式、手技の改良に勤しんでいます。
ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術(Robot assisted laparoscopic partial nephrectomy : RAPN)
2016年にロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術が保険収載となり、当院でも2016年より同術式を開始しております。腎部分切除術は比較的小さな(~4cm、部位によっては~7cmまで)腎細胞がんに対しての治療になります。
腎臓がんは単発で生じる事が多く、がんの部位だけを部分的に切除して治療することが可能です。
がんをくり抜いて切除する際に、ロボット制御の鉗子(手にあたる部位)は関節があり角度を調整できるので、腫瘍をその輪郭にそって切除するのに適しています(従来の腹腔鏡手術では関節がありませんので、どうしても正常な腎実質を大きめに切除しなければならないケースが多いです)。また、腫瘍をくり抜いた後を縫合する際にも、ロボットの手であればより精密に縫い合わせることが可能です。
当院では腫瘍を核出することで、より多くの正常な腎実質を温存し、腎臓の機能をなるべく保てるように工夫して手術を行っております。また、癌をくり抜く際に腎動脈の血流を一時的に遮断するのですが、この時間がなるべく短くなるように術式を工夫し、日々研鑽を積んでいます(遮断の時間が25分以下で腎機能がより温存されるとの報告があります)。
我々の施設で、動脈遮断時間25分以内、切除断端陰性、合併症なしの3項目全てを達成する確率は初期80例のデータで91%、周術期合併症率は全Gradeをあわせて3.8%となっています。
ロボット支援腹腔鏡下根治的腎摘除術(Robot assisted laparoscopic radical nephrectomy : RARN)
腎臓がんのうち、サイズが大きい、或いは発生場所の問題等で部分切除(核出)が困難と判断された場合には、片側の腎臓を全て摘除する根治的腎摘除術が適応となります。2023年4月よりロボット支援手術での根治的腎摘除術が保険適応となりました。それまでの腹腔鏡下手術に比べ、高解像度の3D画像を見ながら人間の手の関節以上の高い関節自由度を持つロボット鉗子を用いて手術を行うことで、低侵襲でより質が高く根治的な手術を行う事が期待できます。
当院ではこの術式に関しては保険適応までは腹腔鏡下手術を行っておりましたが、保険適応に伴い2023年7月より同手術を行っています。従来の開腹手術あるいは腹腔鏡下手術に比べ、精密なはく離・縫合操作が可能となり、より良好な経過が得られるようになりました。
ロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術(Robot assisted laparoscopic radical cystectomy : RARC)
2018年にロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術が保険収載となり、当院でも2018年より同術式を開始しております。
膀胱全摘除術は膀胱がんに対しての治療になります。非常に侵襲の大きな手術であり、泌尿器領域で最も大きな手術の一つになります。ロボット支援下に手術を行うことで、出血量を減らし、また術後退院までの期間を大幅に短縮することが可能となりました(標準的には術後3週間程度での退院が可能となっています)。
2019年以降は体の中で摘除した膀胱の代わりになる部位(代用膀胱、あるいは回腸導管)を体の中で作成する最新の術式も積極的に行い、より低侵襲で体に優しい治療が行えるように日々術式を工夫しています。
ロボット支援腹腔鏡下腎盂形成術(Robot assisted laparoscopic pyeloplasty : RAP)
腎盂尿管移行部狭窄症とは、先天的、あるいは後天的に腎臓の尿を集める部位である腎盂と、尿を膀胱まで輸送する尿管の間が狭窄している、あるいはしてしまう疾患です。そのまま放置すれば狭窄症のある側の腎機能が廃絶してしまう恐れがあります。
同手術は精密な縫合操作が必要となる手術であり、2020年4月よりロボット支援手術が保険収載となりました。
当院でも施設認定を取得し、2020年9月より手術を行っています。従来の開腹手術よりも低侵襲であり、精密な縫合操作でより良好な経過が得られるようになりました。
成人の場合はこの手術により、痛みや感染による発熱などの症状を消失させる効果が期待できます。手術の適応の判断に関しては専門医による検査が必要です。外来にてお問合せ下さい。
ロボット支援腹腔鏡下腎尿管全摘除術、膀胱部分切除術(Robot assisted laparoscopic nephroureterectomy, partial cystectomy : RALNU)
腎盂がん/尿管がんは、腎臓で生成された尿を貯める場所である腎盂、あるいは膀胱まで運ぶ管である尿管に出来るがんです。腎盂と尿管、そして膀胱は一続きの「尿路上皮」という上皮で覆われており、手術の際にはがんが出来た側の腎・尿管・尿管の膀胱への流入部までを一塊にして取る事が必要となります。
従来は開腹手術、あるいは腎臓を腹腔鏡下手術にて摘除し、下腹部を別で切開して尿管摘除・膀胱部分切除を行っておりましたが、ロボット支援下にこの手術を行うことで、開腹することなく高精度かつ傷の小さい手術が実現可能となりました。同手術は精密な縫合操作が必要となる手術であり、2022年4月よりロボット支援手術が保険収載となりました。
当院でも2022年7月より手術を行っています。従来の開腹手術、あるいは腹腔鏡補助下手術よりも低侵襲であり、精密な縫合操作でより良好な経過が得られるようになりました。
当院泌尿器科でのロボット支援手術導入後の診療実績を表でお示しします。
全身麻酔をかけて行う大きな手術の症例数は近年増加傾向となっております。またグラフからも年を追うごとに低侵襲手術(腹腔鏡下手術/ロボット支援下手術)の割合が増えている事が分かります。ロボット支援下手術の症例数は、COVID-19の影響が強く出た2020年に減少したものの以降漸増しており、2023年には過去最多となっております。
手術枠が非常に混雑している状況が続いており待機期間が長くなってしまっているのが課題となっておりますが、2023年11月に手術支援ロボットが1台追加された事でそれまでに比べると待機時間が緩和されております。引き続き症例数の増加に対応し、迅速で良好な手術を提供出来るようにロボットセンター、手術室、麻酔科等各部署で連携を取り、スタッフ一同工夫を凝らして取り組んでまいります。