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病気のはなし
【臨床研究センター(感覚器センター)

遺伝子を補充する最先端治療で暗闇に光を

両アレル性RPE65 遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィー(IRD)の日本人患者を対象に、遺伝子治療薬「ルクスターナ」の有効性及び安全性の評価を目的として、日本の医療環境下で少数例の患者での国内第III相試験

視覚障害の正体は?~目が悪い、の本当の意味~

生まれつき目が悪い、だんだん目が見えなくなるというのは昔は「原因不明の病気」として扱われていました。近代まで有効な治療法はなくリハビリが中心でした。遺伝子解析が発展したことにより病名が明確になり、現在は「遺伝性網膜ジストロフィー」という病名で診断が可能になりました。

小さい頃から視覚に異常がある人は、自分の見え方が「普通ではない」と気づかず、「自分が見えている世界が普通」だと思う子供もいるかもしれません。

では、どのように気づくのでしょうか。
メガネやコンタクトレンズをしても視力が悪く、周囲との違い、例えば、「星空が自分だけ見づらい、つまずきやすい」「視界の中心がぼやける」等の症状を自分で自覚しており、家族 や他人の指摘を受ける中で、診断・検査によってようやく病気が明らかになります。

遺伝性網膜ジストロフィー(IRD)とは

眼の奥にある網膜に異常があり、徐々に視覚が悪くなっていく病気です。その中でも遺伝的な要因で網膜が徐々に変性する病気が「遺伝性網膜ジストロフィー」です。

300 を超える原因の遺伝子があると言われる中で、原因の遺伝子によってその症状や進行の特徴が知られています。

例えばRPE65 という遺伝子の異常の場合は、生来の暗いところの見づらさに加え、視力低下、視野障害が進行し、半数ほど生活が困難になるレベルの視覚障害となってしまいます。そうならないために、早期に発見して治療を受けることが大事です。

網膜と視覚の関係は?

網膜は、目の奥(眼底)にある薄い膜で、杆体細胞(かんたいさいぼう)・錐体細胞(すいたいさいぼう)という光を感じる視細胞が存在します。視細胞が光を電気信号に変換し、視神経を通じて脳に送ることで「見る」ことができる重要な役割を持っています。

医療の最新技術「遺伝子治療薬ルクスターナ」

ルクスターナは、RPE65 遺伝子に病的な変化がある患者の網膜に、正常な遺伝子を補充する治療です。正常な遺伝子を運ぶための無害化したウイルスを使います。そうすることで網膜が新しい遺伝子を使いタンパク質を作り、視細胞の機能を回復する仕組みです。正常な遺伝子を補充して機能させるという、これまでにない治療法なのです。

多くの治療薬は、継続的な投与が必要ですが、ルクスターナはたった一度の治療で長期間効果を発揮するのです。
投与した正常な遺伝子は染色体に組み込まれないエピソーム(輪っか状の遺伝子)という独立した形になっていて、正常なタンパク質を持続的に作ることができるようになります。
つまり体の中から治療薬(正常なタンパク質)をつくり続けることで長期間の機能維持が可能になるのです。

治療後の効果

RPE65 遺伝子の変異による病気(レーベル先天黒内障や早期発症網膜色素変性などと呼ばれる)は、進行すると視力がどんどん悪くなり、最終的に見えなくなってしまうこともある難しい病気です。ルクスターナは、この病気により落ちた機能を、回復させる数少ない治療のひとつです。
実際の治療の試験では、患者さんが視機能の改善を感じたと報告されています。

国内で「ルクスターナ」が使えるようになるまで

ルクスターナは遺伝子治療として2017 年にアメリカで承認されました。しかし、国内で使用するには日本人に効くかどうかを試験して証明する必要がありました。

そこで、遺伝子治療について海外で研究をしていた藤波芳医師は日本へ戻り、国内でより多くの患者を対象に、既存の治療法と比較して、有効性と安全性を最終的に検証する試験(第III 相試験)をおこなうため、準備を開始しました。2019 年に国から試験の許可がおりて、第III 相試験をおこないました。

こうして2023 年6 月に承認取得し「遺伝子治療薬ルクスターナ」が使用できるようになりました。

国立病院機構(NHO)だから実現できた

遺伝子治療薬であるルクスターナは害のないウイルスを使用していますが、自然界に存在しないものであるため、国立病院機構(NHO)は法整備に準拠した運用ルールを策定し、適切な取り扱いが可能となるよう、安全な環境整備をおこないました。

NHO 東京医療センターは遺伝子治療薬の管理・運用が安全にできるためのチームを、視覚研究部、眼科、遺伝診療科、薬剤科等を中心に新設しました。また、臨床研究費・受託研究費・治験研究費を活用する仕組みを支援し、診療部、その他部門との連携強化や企業との協力体制の整備を進める事で、難病患者さんがスムーズに治療へ進んでいけるための垣根を超えた診療・研究体制を整えています。

2020 年11 月から始まり2023 年6 月

両アレル性RPE65 遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィーを対象に実施した、海外第I 相試験(101 試験、102 試験)海外第Ⅲ相試験(301 試験)、国内第Ⅲ相試験(A11301 試験:日本人4 名)の計4 試験の結果に基づき、網膜色素変性の一部である両アレル性RPE65 遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィーに対する初めての遺伝子治療用ベクター(ウイルスベクター製品)「ルクスターナ® 注」(一般名:ボレチゲン ネパルボベク)について、製造販売承認を取得しました。

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