聴覚・平衡覚研究部

聴覚・平衡覚研究部

研究部の紹介

本研究部は聴覚障害研究室、平衡覚障害研究室、再生医療研究室から構成されています。各研究室は臨床から生まれた課題を基に研究を展開し、より優れた診療を確立し、患者の役に立つことを目指しています。また、院内の各診療科および院外の医療施設、研究施設の医師、研究者との連携を重視して、総力を結集して研究活動を進めています。研究内容は、遺伝子解析、再生医療、細胞生物、創薬、治験、臨床研究、リハビリテーションなどですが、詳細は各研究室のホームページをご参照ください。

聴覚・平衡覚研究部
部長 松永 達雄

研究部長より

18年前の勤務先であった言語聴覚障害の専門施設に、先天性難聴を疑われた子が紹介されてきました。各種の聴力検査を行って、ご両親に難聴の診断を伝え、その当時にできる対応として、補聴器による聴覚リハビリテーションの説明をしました。原因についても聞かれましたが、問診、身体所見、画像検査で特別な所見はなく、研究として採血に協力して頂いて遺伝子検査も行いましたが、当時の限られた技術では原因が判明しませんでした。この結果をご両親にお伝えすると、いつか原因がわかるようになってくださいと言って頂きました。もちろん、その言葉には、原因がわかり、治療ができて、例え十分に回復しなくても充実した生活をできるような医療、社会を望んでいますという気持ちがあると理解しました。

以来、難聴の医学・医療の診療と研究に全力を尽くしてきました。少しずつ進歩は続いていますが、目指す場所はまだ彼方です。困難に出会った患者さん、そのご家族が、希望を持つためには現状を正しく理解する必要があります。そこから勇気を持って前に進むためには、確かな根拠のある道筋が必要です。これは難聴に限らず、全ての疾患、特に難病の患者さんに必要であると思います。私達は、その必要に応えるために研究を進めます。そして、この役割を果たす上で、医者、研究者のみでなく、患者さん、ご家族、社会とともに考え、歩むことを、何より大切に考えます。

部長の紹介

部長の松永は慶応義塾大学医学部卒業、同大学院医学研究科修了(医学博士)、川崎市立病院耳鼻咽喉科副医長、Baylor医科大学およびPennsylvania大学医学部博士研究員、国際医療福祉大学言語聴覚センター助教授を経て、2001年4月より現所属。2016年4月より現職。現在は、小児難聴および後天性難聴の診療を中心とした臨床と並行して、難聴遺伝子解析と診療への応用のための研究、および聴覚平衡覚障害の動物モデル、iPS細胞を用いた病態解明と内耳再生治療の研究、そして臨床研究を推進中。2014年5月より東京医療センター臨床遺伝センター長を併任。

所属学会等

  • 日本耳鼻咽喉科学会(代議員、英文誌委員会委員、専門医、補聴器相談医)
  • 日本耳鼻咽喉科学会東京都地方部会(副会長、代議員、幹事)
  • 日本耳科学会(代議員、査読委員会委員)
  • 日本聴覚医学会(代議員、用語委員会委員)
  • 日本人類遺伝学会(臨床遺伝専門医、指導医)
  • 日本めまい平衡医学会(めまい相談医)
  • 日本小児耳鼻咽喉科学会
  • CORLAS(Collegium Oto-Rhino-Laryngologicum Amicitiae Sacrum) Active member
  • ARO (Association for Research in Otolaryngology), Regular member

連絡先

独立行政法人国立病院機構 東京医療センター
臨床研究センター 聴覚・平衡覚研究部
松永 達雄

〒152-8902 東京都目黒区東が丘2-5-1
Tel : 03-3411-0111
Fax : 03-3412-9811
e-mail :

研究部プロジェクト研究内容

私たちの研究室では内耳障害による難聴を中心とした研究を行っています。内耳には音を聞く聴覚と身体のバランスを保つ平衡覚の2つの機能があります。内耳に障害が生じると、難聴、めまい、耳鳴りなどの症状を起こし、特にコミュニケーション障害のため社会生活が著しく困難になります。高齢化社会の到来とともに内耳障害の発症が増えていますが、有効な治療法が少ないのが現状です。そこで、当研究室では内耳障害による難聴に対して分子レベルから病態を解明し、治療法を開発することを目指し、以下のような研究を行っています。

1.難聴の遺伝子解析

感音難聴は臨床の場において現在の診断技術では原因が不明とされる頻度が比較的高く、そのため病態も不明で根本的治療法がありません。近年、原因不明とされていた感音難聴における遺伝子変異の関与が明らかとなってきました。当研究室では、難聴者のDNAを解析し、新たな難聴遺伝子の同定、臨床的特徴と病態の解明、より効果的な検査・診断・予防・治療法の開発に取り組んでいます。

また、私達は研究の一環として、診療における難聴遺伝子検査で原因が判明しなかった患者さんに、研究として遺伝子解析を行い、その結果から原因を診断し、その後の診療に役立てて頂いています。現在は、次世代シークエンスという最新技術を用いた解析を取り入れたことで、難聴の原因が判明する確立を国際的にも最高水準まで高めています。

併せて先天性難聴の原因として頻度の高い先天性サイトメガロウイルス感染の解析も行っています。一般医療施設からの遺伝子解析依頼も可能な限りお受けしますので御連絡下さい。

松永部長は、米国NIH疾患ゲノムデータベース「ClinVar」の専門家パネルの招待委員として、「遺伝性難聴」の評価、判定を担当しており、当施設の遺伝子解析・診断においても国際標準の評価、判定を行っています。

当研究部での研究活動は、国内の多くの公的機関等からの支援を受け、広く国民の医療に役立てられています。例えば、日本医療研究開発機構(AMED)の臨床ゲノム情報統合データベース整備事業「希少・難治性疾患領域」の分担研究者(担当:遺伝性難聴)として、さらに難治性疾患実用化研究事業「ミトコンドリア病診療マニュアル・ガイドラインの改定を見据えた、診療に直結させる各臨床病型のエビデンス創出研究」の分担研究者(担当:遺伝性難聴)として、日本人遺伝性疾患の診療向上に貢献しています。
また、厚生労働省の難治性疾患政策研究事業においても、「先天性および若年性の視覚聴覚二重障害に対する一体的診療体制に関する研究」の研究代表者として、「難治性聴覚障害に関する調査研究」および「国際基準に立脚した奇形症候群の診療指針に関する学際的・網羅的検討」の分担研究者として、「ミトコンドリア病の調査研究」の連携研究者として、遺伝性難聴の診療向上に貢献しています。

2.遺伝性難聴の病態解明

難聴患者の遺伝子解析で新たな難聴遺伝子の候補が同定されると、その機能を検討します。これには、内耳組織での発現、培養細胞への遺伝子導入による機能解析、遺伝子改変モデルマウスの作成とin vivo機能解析、患者からのiPS細胞から樹立したヒト内耳細胞での機能解析などを進めています。

3.先天性および若年性の視覚聴覚二重障害

視覚と聴覚が二重に障害されると、それぞれ単独の障害に対する治療、対応の効果が得られず、生活が極めて困難となります。これは、それぞれ単独の障害では、もう一方の感覚(視覚障害では聴覚、聴覚障害では視覚)に頼って治療、対応が行われているため、両方の感覚を失うとその方法を用いることができなくなるためです。つまり、視覚聴覚二重障害の医療には、聴覚障害の医療、視覚障害の医療とは異なる医療が必要となります。

また、視覚、聴覚二重障害といっても、各障害の発症時期と程度によって、様々なタイプに分類され、それぞれのタイプに適した診療を行う必要がありますが、国内ではそのような取り組みがこれまでありませんでした。特にこの二重感覚障害を早期から持つ場合は、患者の言語獲得、教育および就労に大きな影響があります。これまで日本では、視覚障害、聴覚障害はそれぞれの専門分野(眼科、耳鼻科)で独立して診療が行われ、二重感覚障害に対する一体的取り組みはありませんでした。

そこで、当研究部は平成29年度から厚生労働省の難治性疾患政策研究事業として、先天性あるいは若年性の視覚聴覚二重障害に対する一体的医療の確立に取り組んでいます。

4.内耳障害に対する新規治療法の開発

急性内耳障害モデルマウス、遺伝性難聴モデルマウス、遺伝性難聴患者のiPS細胞などを用いて、内耳障害に対する新規治療法の開発のための基礎的研究を進めています。具体的には、幹細胞移植による治療効果の検討、難聴以外の疾患を対象として開発された新規薬剤から難聴に対する効果も期待できる薬剤の検討などを進めています。一部の遺伝性難聴では臨床研究開始に向けた準備も進めています。

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